colnyago’s diary

勝手気ままに書き散らかしたものです

ベンゲル来ないかな

ついにW杯が始まった。

日本の初戦は19日の午後9時(現地時間午後3時)キックオフ。場所は、サランスク。この地域の6〜7月の気候は、ネット情報で見ると、日中24度くらい。日本の5月くらいの気候か。日なたでは少し暑く感じるかもしれないが、選手たちにとってはプレーしやすそう。となると、90分間の活動量も豊富で、ハイレベルなゲームが多くなる予感。

最近、昔読んだ本を読み返した。ベンゲルグランパス監督からアーセナル監督初期時代の頃を、中西哲生氏と戸塚啓氏がまとめたものだ。 

ベンゲル・ノート

ベンゲル・ノート

 

当時の練習内容、ミーティングや試合でのベンゲルの発言などを詳細にまとめてある非常に貴重なものだ。W杯が近づきつつあることも、再読した原因の一つだが、最も大きい要因は子供がサッカーをやり出したことで、日々のトレーニングなどプロはどうしてるのか、とふと読み返したく思ったからだ。

読むと、ベンゲルは特別なことは言っていないしやっていない印象。毎日の基礎練習の中に、試合の一部を切り取って落とし込み、反復練習によって体や頭に染み込ませる。もちろんマンネリ化しないように日々の工夫がなされている。文中、当時アーセナル所属であった稲本のインタビューにもあるが、アーセナルの練習だから特別な練習かというとそうではなく、ガンバや日本代表の練習とよく似たもの。さらに、中西氏が現役だった頃のグランパスの練習ともほぼ同じ内容という。

中西氏が、ベンゲルから学んだことで最も印象的なことは、"Most important thing is detail" だという。

これ、どの分野にも当てはまる言葉だ。この言葉の元は、建築業界で使われ始めた、神は細部に宿る(God is in the detail)である。

私は大学教員だが、主な仕事内容は、大学での講義と実習を行うこと、そして、研究(実験)を行い、論文を書くことである。授業内容もそうだが、特に、論文を書くときにものすごく気を使う。本当に、”神は細部に宿る”を実践しないといけない。例えば、論文の主旨に沿って、グラフを完成させていくが、グラフに使うフォントの種類、大きさ、グラフに対する位置など一貫性を取ることはもちろん、数値化に使用した画像についても、大きさ、配置や並び、色合い、サイズバーの太さや位置など、これらは1ピクセル単位まで一致させる必要がある(ヒトの目は非常に優秀だから、少しのズレも騙せない)。本文についても、英文論文での発表がほとんどなので、記述内容や基本グラマーはもちろん、図の作成同様に、使用する専門用語の定義、言い回し、主語ー述語の関係、受動態と能動態の使い分け、時制の一致、適切な文献の引用等々、神が宿るであろう細部は多く存在する。

これらがきちんと適切に処理されていないと、当然、第3者の評価により出版が拒否されてしまうのである。しょうもないところで間違っていたりすると、内容までそういう目で見られてしまう。自分が他の研究者の論文を評価するきも、やはり同じ観点で読む。我々研究者の頭痛の種だ。

話は元に戻るが、ベンゲルが気をつけている細部まで気を配ることは、何も特別なことではなく、どの世界においても重要とされることである。

私は、いつも学生に、ある分野で成功できている人は、おそらくどの分野においても高い確率で成功できる人だと言っている。その本質は、神は細部に宿る、にあると思うのだ。

また、もう一つベンゲルの優れていることは、人の観察だという。サッカー監督は、選手やスタッフ、クラブの上層部と、人と人の付き合いをしなければいけない。ときには忖度も必要かもしれないが、重要なのは、正しい情報(フィジカルの数値、食事内容、練習態度、その選手が誰と仲がいいかなど)を持ち、それを元にして、選手に適切なアドバイスを送らなければいけない。もちろん、毅然とした態度は望まれ、適度な距離感を保ちつつ、上記を実践する。これも、どの世界でも当てはまる。

監督と選手の間に形成された確固たる信頼関係のもとに、トレーニングと試合をこなし、その都度フィードバックをしっかりしていく。これを継続していくと、それがさらに互いを結びつけていき、基盤がよりしっかりしていく。多少の失敗はいつでもあるし、むしろ失敗から学ぶことの方が多い。きちんとした分析により、失敗した原因が見つかれば、次への飛躍へと繋がっていく。こんな善循環が生まれれば、成功する可能性は飛躍的に高まるだろう。ベンゲルがやっているのは、日頃から細部にまで気を配り、練習や試合、日々の生活で気付いたことをフィードバックしていく。これを地道に毎日続けることなのだ。まさに千里の道も一歩からだ。

ベンゲルは17-18年シーズンでアーセナルを退団したが、有力とみられていたレアルの監督にはならなかった(これに関係して、スペイン代表は直前にして監督交代というえらいことになっている)。今後、どうするのだろうか。もう68歳なので、監督業から引退する可能性もあるが、最後に、日本代表監督になってくれないものだろうか。

監督という激務が無理なら、サッカー協会の技術委員長に就任してくれないだろうか。特に、近年、若年層の育成システムの再編成が必須だと言われてきている。そこで、抜本的に改革を行うことを目的に、ぜひベンゲルを引っ張ってきてほしい。

日本代表の監督選考も含めて、4年に1回のW杯開催に合わせて、代表の強化法やサッカー内容がリセットされてきたような印象がある。それは、外国人監督に任せっきりだからだ。そのために、育成年代からフル代表への継続性はほとんどないのが現状。やっているサッカーの理念がバラバラなら、各年代の代表選手に必要とされる資質もバラバラになる。これでは一貫したものにならないのは当然だ。

もちろん、Jリーグができてまだ25年。これからの方針が最重要課題となる。多分、各クラブで実践する戦術は異なるとも、日本人の資質にマッチした根源的な日本サッカーは存在し得ると思う。それにあたるものを、育成年代から代表まで貫く理念として、日本サッカーの最大公約数とする。これと同じ線上に、岡田さんがFC今治で目指していることも完全に一致する。要は、オシムが目指した、日本サッカーの日本化である。日本サッカーの日本化を本気で再考する時期が今なのだと感じる。

そのためにも、日本人の特性を知り、世界を知るベンゲルが最もふさわしいと思う。